INTERVIEW :久保田稔製陶所 -久右エ門- 久保田 剛さん

前回のブログでは、ブルーボトルコーヒーのオリジナルドリッパーについて、その特長や開発に込められた想いについてご紹介し、世界中のブルーボトルコーヒー カフェで使われているこのドリッパーは、日本の有田焼であるともご紹介いたしました。今回のブログでは、そのドリッパーを一つずつ丁寧に製作してくださっている、佐賀県有田町にある久保田稔製陶所 -久右エ門-の久保田さんのインタビューをお届けいたします。

久保田 剛 さん


久右エ門は、久保田さんのお父さまが創業され今年で創業58年を迎えられます。有田は創業100年など古い窯が多いそうで、久右エ門さんは比較的新しい窯なのだそうです。研究熱心な久保田さんのお父さまが、1から窯業を独学されて久右エ門を創業されました。有田焼は強度に優れ、長く使用することができ、食品への匂い移りもしにくいため、食材本来の味を楽しめるということで、おろし器やすり鉢、レモン搾りなど、調理器具を中心に製作されていました。また、セラミックの研究もされており、初めてセラミックのコーヒーフィルターを作られたのも久右エ門さんなのだそうです。その後、久保田さんがお父さまの跡を継がれ、2代目として現在ご活躍されています。ちなみに久保田さんご自身もコーヒーがお好きで、週末は丁寧にドリップしたコーヒーを楽しんでいらっしゃるそうです。お好きなブルーボトルのコーヒーはベラ・ドノヴァンとスリー・アフリカズだそう。

どのような経緯で久保田さんがブルーボトルコーヒーのドリッパーを製作していただくようになったのでしょうか。ブルーボトルコーヒーでは、オリジナルドリッパーの開発にあたって、世界中のさまざまな素材を検討いたしました。その中で強度に優れ、その薄さにより熱伝導にも優れている有田焼にスポットが当たりました。

「有田焼の始まりは今から400年ほど前に有田で良質な磁器の土が見つかったことです。非常に珍しい土で、他産地の焼き物は複数の種類の土を混ぜて生地を作りますが、有田焼は1種類の土と水のみで生地を作ります。」と久保田さん。久保田さんにお話があったのは、2016年の始めだったそうです。

「2016年の始めにブルーボトルからドリッパー製作のお話をもらって、夏には設計担当者がアメリカから来日し、有田に2週間滞在しました。ドリッパーの内側にあるリブ(縦線)の形状は7パターン、抽出口の穴の大きさは3パターン、全部で21パターンのサンプルを試作し、半年以上かけて作り上げました。」と久保田さん。1杯のおいしいコーヒーをできるだけ多くの方にお届けしたい、という設計担当者の強い情熱を感じられたそうです。

ロゴの色も何種類か試したそうです。

 

では、実際どのようにドリッパーを製作しているのでしょうか。製作工程は生地作り、素焼き、釉薬の塗布、本窯での焼成、検査、ロゴの焼き付けに分かれており、久右エ門さんでは素焼きから検査までを行っています。まずは生地を作り、4つのパーツに分かれている石膏の型に流し込みます。石膏は水を吸うので柔らかい生地(土)を流し込んでしばらく置くと、石膏が水を吸って固まります。固まったら生地を型から外して乾燥させ、丁寧にバリ取り(製作中に意図せずできた突起物を取る作業)を行います。その後、900度で素焼きをします。

固まった生地を型から外している様子。外すのにも技術が必要なのだそう。

素焼き前にできてしまった突起物を丁寧に取って、濡らしたスポンジで表面を整えます。

 

素焼きのあとは、釉薬をかけてから本窯で焼成していきます。本窯での焼成は、1,300度で24時間かけて行います。「有田焼の魅力のひとつは、高温で焼き上げることによって実現する強度と見た目の美しさです。通常の土物などは1,000度〜1,100度で焼きますが、有田焼は1,300度で焼き上げます。」と久保田さん。


本窯での焼成が終わると、次は検査の工程です。このドリッパーの要のひとつである抽出口の穴が正しい大きさかどうかを検査していきます。久保田さんは、この穴の大きさを適切な大きさに仕上げることがドリッパー製作で1番難しいとおっしゃいます。

「穴の直径は製品として出荷できる合格範囲が厳しく決まっており、この範囲を外れてしまうとコーヒーの抽出に影響が出てしまいます。陶器は焼くと約1割縮み、またその日の気温や釉薬の水温で釉薬のかかり具合が異なり、それを全て計算して穴を開けています。1回の本窯での焼成で合格となるのは約7割。穴が小さい場合はコンクリートドリルで調整し、再度釉薬をかけ、穴が大きい場合は釉薬で調整して再度焼きます。製作工程で1番大変な部分ですが、誰でもおいしいコーヒーを淹れられるこのドリッパーの非常に大事なポイントなので、妥協はしません。」と久保田さん。一つずつ丁寧に作っていただいていることが伝わってきました。

右から生地が固まった状態、素焼き後、釉薬をかけて焼く前の状態、本窯での焼成後、ロゴを焼き付けた完成品。

この抽出口の穴の大きさは、ヤマハ発動機株式会社さまにご協力いただき開発された、検査治具で測定をしています。この治具によって、ドリッパーの要のひとつである抽出穴の大きさは、100分の1ミリの精度で担保されています。検査治具の制作ストーリーはこちらからご覧いただけます。

穴の大きさや傷がないかなどの検査を合格したドリッパーには、ブルーボトルのボトルロゴを焼き付けます。ここで再度800度で焼いて、焼成の工程は終了です。最後の梱包時も、抽出口の穴の大きさを念入りに検査し、ようやく出荷することができます。生地を作るところから出荷まではすべて手作業で、1週間から10日ほどかかるそうです。2016年から販売が開始され、現在では月によりますが1ヶ月で5,000個ほどを製作いただいています。

販売開始から約7年経ち、当時よりも世界中でブルーボトルコーヒーのカフェが増えて、製作する量も増えてきた中での変化を伺ったところ、「製作を始めた頃から変わったことは何もありません。最初に決めた通りに同じ方法でずっと作り続けています。同じ型を使い、工程を省いたり妥協することなく製作することが、より多くの方がおいしいコーヒーを楽しんでいただけることに繋がっていていると信じており、私も誇りに思っています。」とお話いただきました。

より多くの人においしいコーヒーを楽しんでいただきたい、というブルーボトルの想いと同じ想いを持っていただき、一つの工程も妥協することなく日々ドリッパーを製作していただいている久保田さん。最後に、「ブルーボトルのカフェで、実際に自分が作ったドリッパーが使われ、お客さまにコーヒーが提供されている様子を見た時や、カフェにドリッパーが並んでいる様子を見た時は感無量でした。世界中の多くの方に有田焼をお届けできていることを誇りに思っています。」とお話してくださいました。ぜひ、このドリッパーでお気に入りのコーヒーを淹れていただき、ひとつのドリッパーが出来上がるまでのストーリーや製作者である久保田さんの想いを通して、日々のコーヒーをお楽しみいただけると嬉しいです。

久右エ門さんではドリッパーの他にも、食器やマグカップ、セラミックのコーヒーフィルターなども制作されております。詳しくはホームページをご覧ください。また、ブルーボトルコーヒー オリジナルドリッパーは全国のブルーボトルコーヒー カフェ、または公式オンラインストアでご用意しております。