INTERVIEW with AIDA BATLLE
2回にわたってお届けしている、ブルーボトルコーヒーがコーヒー豆を購入しているコーヒー生産者について、前回はFAFについてご紹介いたしました。今回は2010年頃からブルーボトルコーヒーがコーヒー豆を購入しているエルサルバドルの女性コーヒー生産者 Aida Batlle(アイダ・バトル)氏のインタビューをお届けいたします。先日、アイダさんが来日された際に、ブルーボトルコーヒー 清澄白河フラッグシップカフェにお立ち寄りいただき、直接お話を伺うことができました。
About Aida Batlle
アイダさんはエルサルバドルのサンタアナ地域で3つの農園(フィンカス・ロス・アルペス、キリマンジャロ、モーリタニア) を運営する5代目のコーヒー生産者です。エルサルバドル内戦中に米国に逃亡した後、2000年代初めに農園に戻りました。農園で働くことは彼女にとって新たな挑戦でしたが、コーヒーを「新鮮なフルーツ」として扱い、より良いコーヒーを生み出すために強い好奇心を持って栽培品種と技術の実験を繰り返しました。その結果、2003年にエルサルバドルで初めて開催されたCOE(カップオブエクセレンス)で彼女のコーヒーのキリマンジャロが優勝し、1ポンドあたりの当時の最高価格で販売されたことで、彼女の名は瞬く間に広まりました。
「カスカラ(コーヒーチェリーの種子を取り除いた、残りの果実や皮の部分)」を煮出して飲むお茶は、昔からイエメンやエチオピアのコーヒー農園で親しまれてきましたが、そのカスカラを再発見し、現代のコーヒーシーンに取り入れたのもアイダさんです。ブルーボトルコーヒーでもカスカラをシロップにして炭酸水を合わせてお作りするノンコーヒードリンクの「コーヒーチェリーフィズ」がお馴染みですね。
ー カスカラティーのアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?
2005年のある日、カッピングラボにいた時にコーヒーチェリーの皮の部分から香りがすることに気づきました。その時、コーヒーチェリーの皮の部分はお茶として使えるかもしれないとひらめいたのです。スペイン語で皮や殻を意味する「カスカラ」と名付けました。最初はナチュラルプロセスで処理されたコーヒーチェリーを使っていましたが、よりクリーンでおいしいカスカラができるように、ウォッシュドプロセスで処理されたコーヒーを使用するよう変更しました。
ー コロナ、気候の変化、さび病など、コーヒー農園にはさまざまな課題がある中で、アイダさんのモチベーションは何ですか?
農園の状況は厳しいですが、ABS(Aida Batlle Selection)プログラムがひとつのモチベーションになっています。ABSプログラムとは、私たちがコーヒー生産者にコーヒーチェリーのピッキングの仕方や精製方法についてトレーニングし、コーヒー生産者とハイエンドマーケットを繋いで彼らのコーヒーを適正価格で取引されるようサポートする活動のことです。2009年にスタートし、現在エルサルバドルに12、メキシコに3、ブラジルに3、中国・雲南省のコーヒー農園をサポートしています。生産者、ロースター、バイヤーはFOB価格*を把握できるようにするなど、価格についての透明性を徹底しています。
*FOB価格:Free on Board、売り手が指定の船積み港において買い手が手配した船舶に貨物を積み込み、船舶上で引き渡すまでの一切の費用を含めた価格
ー 1975年と比べてエルサルバドルのコーヒー輸出量は半分以下だと2011年の記事で仰っていましたが、状況はどのように変わっていると思いますか?
残念ながら状況は良くなっておらず、むしろ悪くなっています。政府からの補助金やサポートがないため、自分たちで農園を維持しています。2012年にはさび病*が発生しました。当時、購入したばかりの農園も被害に遭い、酷い状況でした。元の生産状況まで回復するのには8年もかかりましたが、その後すぐにコロナ禍となってしまいました。
*さび病:コーヒーの葉の裏に付着し、菌糸を伸ばして葉肉を浸食する病気。コーヒーの葉は光合成機能を失い、2〜3年で枯れてしまう。
さび病の被害時(写真上)と通常の農園(写真下)
ー コーヒー業界での女性生産者の立ち位置についてどう感じていますか?
浮き沈みはありますが、肯定的に捉えられていると感じています。私はアメリカで育ち、コーヒーを消費する側のマインドセットを持っていたため、コーヒー農家とは違った目線を持ってコーヒー業界に足を踏み入れました。そのため、課題はありましたが、自分の性別によって壁に当たったことはありません。
ー コーヒー農家とは違った視点を持っていたからこそ、COEで評価されるような素晴らしいクオリティのコーヒーを生産したり、カスカラティーの再発見をしたりすることに繋がったと思いますか?
そうですね、2002年にエルサルバドルに戻ってきて、初めて自分の農園のコーヒーを飲みました。それまでは、全てのコーヒーチェリーをピッキングして、熟れたチェリーと未熟なチェリーを選別して精製所へ渡すだけでしたが、私はコーヒーチェリーはフルーツだと認識し、コーヒー豆の生産プロセスや、なぜその精製方法をとっているのかなど、さまざまなことに強い興味や好奇心を持っていました。さまざまな方法を好奇心を持って試した結果、素晴らしいコーヒーをお届けできるようになりました。
ー アイダさんが一番好きなコーヒーの生産工程は何ですか?
収穫の時が一番わくわくします。農園のスタッフ全員が集まり、交流できたり熟れたコーヒーチェリーに対するリアクションなどを見ることができたりします。コーヒーについて、フレーバーがどうだったか、改善点はあるかなど聞ける機会があるのが嬉しいんです。
ー アイダさんの好きなコーヒーの飲み方は何ですか?
昔からフレンチプレスで淹れたコーヒーが大好きです。コーヒー豆の鮮度やオイルなど、本来の味わいを楽しむことができ、カッピングを思い起こさせてくれる飲み方です。
いかがでしたでしょうか?さまざまな困難を乗り越えながら、他の農園もサポートしているアイダさん。お話を伺っている時も、彼女の明るさやコーヒーへの情熱が伝わってきました。ぜひみなさまもアイダさんのコーヒーを飲む機会があれば、彼女の情熱に想いを馳せながらお楽しみいただけると嬉しいです。
アイダさんの活動や農園の様子はインスタグラムやホームページでもご覧いただけますので、ぜひチェックしてみてくださいね。