Roaster Talk : Allpress Espresso Japan & Blue Bottle Coffee Japan

12月13日(土)、14日(日)の2日間、ブルーボトルコーヒー 清澄白河フラッグシップカフェで開催されたホリデーマーケット。ブルーボトルコーヒー ホリデーギフトコレクションのテーマ「THE ART OF GIFTING」に込めた想いとともに、上質な味わいやアイテムを揃え、ホリデーならではの特別な時間をお届けしました。

そのワークショップのひとつとして特別開催したのが、オールプレス・エスプレッソ・ジャパン(以下 オールプレス)とブルーボトルコーヒー(以下 ブルーボトル)による、初の共同開催となるカッピングクラスです。同じ清澄白河の街でスペシャルティコーヒーを届けてきた2つのブランドのロースターが初めてテーブルを囲み、それぞれのロースタリーで焙煎したホリデー期間限定のブレンドコーヒーを含む13種類のコーヒーをゲストのみなさまにカッピングでご体験いただきました。

クラスを率いるのは、両ブランドの焙煎とデリシャスネスを支えるロースターの二人。オールプレスでロースタリーマネージャー兼トレーナーを務める Yuta Ishida さん、そしてブルーボトルでシニアロースタリー リーダーを務める Kenta Yamamoto さんです。

今回のブログでは、二人の対話の様子をお届けします。

オールプレスでロースタリーマネージャー兼トレーナーを務める Yuta Ishida さん(写真左)と、ブルーボトルでシニアロースタリー リーダーを務める Kenta Yamamoto さん(写真右)

オールプレス・エスプレッソさんは日本上陸から11年、ブルーボトルコーヒーは日本上陸から10年。コーヒータウンとして知られる、同じ清澄白河の街にカフェを構えてスペシャルティコーヒーをお届けしてきましたが、今回が初めての共同開催カッピングクラスとなりました。開催にあたってどんなお気持ちでしたか?

Kentaさん: 同じ清澄白河の地でスペシャルティコーヒーを届けてきた存在として、互いのコーヒーを並べてカッピングする時間はとても新鮮で、開催が決まったときから楽しみにしていました。ブルーボトルコーヒー 清澄白河ロースタリー&カフェ(現・清澄白河フラッグシップカフェ)のオープン前に竣工視察に来た際、その帰りに上陸されて間もなかったオールプレスさんへ立ち寄って、初めてフラットホワイトを飲んだことを今でも覚えています。そんな思い出もあって、とても感慨深い共同開催になりました。

普段、焙煎所で毎日行っているカッピングは、チームメンバー間で先入観を取り払うために黙々と品質チェックをしていくのですが、今回はゲストのみなさんと一緒にコーヒーの楽しみ方を発見し、奥深い世界をより知っていただける機会だと思っていました。カジュアルにお楽しみいただけたら良いな、と。

Yutaさん:僕にとってブルーボトルさんは、コーヒーを仕事にしようと思ったきっかけのひとつでもあります。こうして同じ街でスペシャルティコーヒーを届けているブランドとして、一緒にコーヒーの楽しさをお伝えできるのはとても嬉しかったです。

今回のようなパブリックカッピングは、真剣になりすぎてしまうと途端に楽しさが引き出せなくなってしまうこともあると思っています。ブルーボトルさんならではのフラットな雰囲気のなかで、ゲストのみなさまと、コーヒーの味わいの幅広さや奥深さ、面白さを素直に感じていただけたらと思っていました

 

それぞれ清澄白河に日本一号店を構えていながらも、オールプレス・エスプレッソさんはニュージーランド、ブルーボトルコーヒーはアメリカ・カリフォルニア・オークランドと、ルーツが異なります。実際にカップを並べてカッピングをしてみて、どんなところにブランドの違いがありましたか?

 Kentaさん: 私たちブルーボトルとオールプレスさんは同じメーカーの熱風式焙煎機を使用しています。そのため焙煎のやり方自体に大きな違いはないのですが、ブレンドコーヒーのつくり方に違いがありました。

ブルーボトルでは「アフターブレンド」といって、ブレンドコーヒーの構成要素となるコンポーネントの豆をそれぞれ焙煎し、あとから配合して掛け合わせています。そうすることで一杯のコーヒーとなったときに、時間の経過による温度の変化とともに産地や焙煎度合いの違いがボディやアフターテイストの「層」を生み出します。これはブルーボトルの創業者ジェームス・フリーマンが日本の喫茶店文化に影響を受け、1杯ずつ抽出するドリップコーヒーでのご提供を大切にしていることにも通じていて、コーヒーの果実本来の味わいを楽しんでいただくための、私たちの焙煎のこだわりです。

Yutaさん:私たちオールプレスでは「プリブレンド」と呼ばれるブレンド方法で、生豆の状態でコンポーネントをブレンドしたうえで焙煎しています。オールプレスのブランド発祥地であるニュージーランドはエスプレッソ文化が根付いており、日本のカフェでもロングブラックやフラットホワイトなどエスプレッソドリンクを軸としてご提供しています。「プリブレンド」の焙煎によってエスプレッソドリンクにした際のフレーバーのまとまりや、アフターテイストとして続く余韻を表現できるのが特徴です。エスプレッソでの抽出を軸としながらも、日本のコーヒー文化としてご注文いただくことの多いドリップコーヒーにも合わせて焙煎を調整しており、ドリップコーヒーでもエスプレッソドリンクでも、どちらでもおいしくお楽しみいただけるよう、焙煎度合いや配合割合をローカライズしています。また、オールプレスでは、自社のカフェでの提供のほか、全国各地のパートナーカフェやレストランへ向けてコーヒーをお届けしており、4種類のコーヒーをシグネチャーとしてメインで焙煎しています。そのためロースタリーでのオペレーションにおいても、多くのパートナーへ安定した品質でお届けできるように焙煎することを大切にしています。

カッピング体験していただいたホリデー限定ブレンドのオールプレスの FESTIVE BLEND とブルーボトルコーヒーの WINTER BLEND。

今回共同開催のカッピングクラスをするにあたって、オールプレスさんとブルーボトルでカッピングの進め方の違いに発見はありましたか?

Kentaさん:カッピングは国際的なコーヒー豆の評価方法なので、ブルーボトルとオールプレスさんで進め方はほぼ同じです。豆を挽いた瞬間のドライの香り(フレグランス)、お湯を注いでブレイク(スプーンでかき混ぜる工程)をした瞬間の香り(アロマ)、そして温かい状態・冷めた状態で口に含んだときの香り(フレーバー)、酸味、ボディ、甘み、アフターテイストをテイスティングしてコーヒーの生豆そのものや、焙煎工程のクオリティチェックを行います。この温度変化を伴うテイスティングの作業は、2つのブランドの違いというより個人の違いが出る部分かもしれません。温かい状態・冷めた状態でそれぞれ一度きりと決める人もいれば、何度も繰り返す人もいますよね。僕は何度もテイスティングすると分からなくなってしまうので基本は1度と決めて、気になるものだけ最小限に確かめるようにしています。Yutaさんはいかがですか?

Yutaさん:僕は何度かテイスティングして確かめることが多いですね。というのも、ブルーボトルさんはブレンドコーヒーに加えて焙煎後のコンポーネントもカッピングされますが、オールプレスは「プリブレンド」のため、ブレンドした状態のコーヒーのみをカッピングします。そのため、一つのブレンドコーヒーのカッピングの中で、数回のテイスティングを通して”分解する”ようにコンポーネントの状態を想像しながら品質確認をしています。そして最後に、ブレンドコーヒーとして全体のバランスを確かめていく。感覚的にそんな作業をしているからかもしれません。焙煎やブレンドコーヒーのつくり方の違いが、カッピングの進め方にも表れると考えると面白いですよね。

実際に今回、ブルーボトルさんの「アフターブレンド」のバッチとコンポーネントのバッチを複数カッピングして、「これがこのブレンドコーヒーのベースになっているのかな」「冷めた状態でのアフターフレーバーはここかも」「もし自分でこの豆を焙煎するならこのくらいの焙煎度を目指すだろうな」と感じていたことが、Kentaさんのゲストへの説明の中で言葉として整理されていくのを聞き、驚きと面白さがありました。

カッピング体験を通じて、ゲストにどんなことを楽しんでもらいたいですか?ゲストの反応で印象深かったことはありますか?

Kentaさん:普段の現場でのカッピングは、先入観を持たないためにチームで行っていても黙々と進めていくのですが、今回はYutaさんと、ゲストのみなさまと一緒に、コーヒーの楽しさを感じていただこうとカジュアルな空間の中で進められたのが印象的でした。カッピングは、買い付けや焙煎クオリティチェックに用いられる専門的な作業でもありますが、同時にコーヒーの楽しみ方が凝縮された作業でもあると思っています。挽いた瞬間の香り、お湯を注いでかき混ぜる瞬間に立ち上る香りの変化、温度とともに移ろう味わい。そのひとつひとつを丁寧に感じ取ることで、一杯のコーヒーの奥行きが見えてくるのではないかなと。

コーヒーは提供される頃には茶色い液体となりますが、豆を挽いた直後、お湯を注いだ直後が一番香りが立って楽しめる瞬間でもあるんです。そして忘れられがちですが、抽出前、焙煎前、乾燥前を辿ると、年に一度だけ収穫することができるコーヒーチェリーという果実なんですよね。たくさんの人の手を渡って届けられる尊い存在としてのコーヒーの価値を存分に楽しめるテイスティング方法。それがカッピングの作業だと思うんです。

Yutaさん:打ち合わせの時から、ゲストに楽しんでもらおうという気持ちは共通していましたよね。いつも焙煎する時も、実際にカフェで提供されるシーンや、ゲストがどんなタイミングでその一杯を口にするのかを想像しながら焙煎しています。今回のカッピングでも、正解を探すというよりは、「自分はこう感じた」「この香りが印象に残った」といった、それぞれの感じ方を大切にしながら、自由に楽しんでもらえたらいいなと思っていました。ゲストのみなさまも緊張されていたり、初めての作業に難しさを感じられたりしていたかと思いますが、カッピング後のディスカッションタイムでは、両ブランドのコーヒーの味わいの違いや、純粋にコーヒーの味わいを楽しんでくださっていたことが嬉しかったです。

それぞれグローバルのスペシャルティコーヒーロースタリーブランドで活躍されているロースターのお二人ですが、どんなきっかけでロースターになられたのですか?

 Kentaさん:僕はブルーボトルでロースターをする前、コモディティ向けのコーヒーロースタリーにいました。そこには二つの部門があって、缶コーヒー用の原料を焙煎する部門と、ドリンクバーなどで提供されるリキッドの製造をする部門です。最初は後者に配属され、当時は焙煎を担当していませんでした。ただ、入社時研修で焙煎を学んだときに、「ロースターってなんてかっこいい仕事なんだろう」と衝撃を受けたんです。その気持ちは今も変わりません。

Yutaさん:僕もロースターという仕事にかっこいい職業だなと憧れの気持ちがありました。もともとは一般企業の会社員として働いていたのですが、コーヒーのサードウェーブが広がってきた頃にエチオピアのイェルガチェフ産のコーヒーを飲んでそのおいしさ、コーヒーの面白さに衝撃を受けたんです。「コーヒーを仕事にしたい」と強く思った瞬間でした。そこから、世界につながる仕事がしたいという気持ちもあって、ロースターになることを目標に国内外のカフェでバリスタとして働き、生豆の営業も経験しました。コーヒーに関わるさまざまな経験を経て、憧れだった焙煎に挑戦したいと思い、今に至ります。


日々焙煎をされていてワクワクする瞬間はありますか?

Kentaさん:焙煎していてワクワクするかと言われると……あまりないかもしれません。どちらかというとヒヤヒヤしていることの方が多いですね。ロースターは責任の大きさが問われる仕事で、ロットが大きくなればなるほど、失敗できないという重圧も大きくなります。だからこそロースターという職業がかっこいいと思えるのかもしれません。

今日のカッピングクラスでも、オールプレスさんのコーヒーはゲストのみなさまと一緒に心から楽しんでカッピングすることができましたが、自分たちが焙煎したコーヒーについては、「これで大丈夫かな」と不安になりながら確かめていました。ロースターは、とても孤独な職業だと思います。ただ、この付きまとう不安こそがとても大切なものだと思っていて、より良い焙煎をし続けるためには必要不可欠なものだとも感じています。

Yutaさん:わかります。僕も同じく、自分たちのコーヒーは「大丈夫かな」と心配しながらカッピングしていました。反対に、ブルーボトルさんのコーヒーはそのおいしさに安心感すらありました。ロースターの仕事は常にベターを探求する作業なので、これが完璧、というものは存在しなくて、豆との対話を追求し続ける世界。そういった意味では、そこにワクワクとした探究心があるかもしれませんね。焙煎は孤独で地道な作業の連続ですが、こうしたパブリックカッピングの場で、ゲストのみなさまと時間を共有できてとても良い時間でした。

 

お二人とも長くコーヒー業界で活躍されているなかで、肌で感じるコーヒー業界の傾向はありますか?

Kentaさん:そうですね、コーヒーの生豆でいうと、精製方法ではサードウェーブ到来当初のウォッシュドが注目されていたころから、アナエロビックのような発酵度合いの強いものが注目されるようになり、最近ではそれが落ち着きつつあるかなと思います。コーヒーチェリーの精製によるフレーバーと産地特有のフレーバーのバランスというのが見直されてきているように感じます。さらに、優れた品種が海を超えて栽培され、異なる気候や地形などのテロワールによって新たな味わいが生み出されたりと、この十数年で選択肢もかなり広がっているのではないでしょうか。

Yutaさん:コーヒー豆はもちろん、抽出や焙煎におけるツールにおいても、ここ5年、10年で選択肢がかなり広がったように感じます。ロースターの僕たちでも驚くほど種類があるんです。焙煎機は特にマイクロロースターの登場によって、焙煎はぐっと身近になったと思います。

少量から焙煎ができることで表現の幅や楽しみ方が広がった一方で、大きな釜だからこそ引き出せる安定感や奥行きのある味わいもある。それぞれに役割があって、どちらが正解という話ではないと思っています。

そして焙煎のシーンに限らず、コーヒーの栽培から買い付け、焙煎、抽出、そして提供に至るまで、コーヒーの価値をどう届けるかという「環境づくり」の選択肢が増えたことは、とても大きな変化ですよね。だからこそ、ゲストのみなさまが味わいを丁寧に感じていただくために、価値を伝え続けることがコーヒーをより豊かな存在にしてくれるのだと思います。

 

最後に、ロースターとしてゲストへ一杯のコーヒーをどのように楽しんでもらいたいですか?

Kentaさん:難しく考えすぎず、まずは「おいしい」と感じてもらえることがいちばんだと思っています。そのうえで、もし少しだけ立ち止まって、香りや味わいの変化に気づいてもらえたら嬉しいですね。一杯のコーヒーの奥にある背景や工程に、思いを巡らせてもらえたら、それはとても贅沢な時間だと思います。

Yutaさん:本当にそうですね。正解を探す必要はなくて、それぞれの感じ方で楽しんでもらえることが一番の価値だと思います。今回のカッピングクラスのように、誰かと感想を共有したり、「こんなふうに感じた」という会話が生まれたりすることも、コーヒーの楽しさのひとつではないでしょうか。

コーヒーの話から少し離れて、プライベートな一面も。Yutaさんは銭湯、Kentaさんはビリヤニ作りが趣味だそうです。

同じ街でコーヒーを届けてきた2つのブランドが、初めてテーブルを囲んだ今回のカッピングクラス。ブランドの違いを超え、コーヒーの楽しさや奥行きある世界をゲストと共有する、特別な時間となりました。

焙煎の現場で行われているカッピングは、品質を見極めるための専門的な工程でありながら、同時にコーヒーの魅力が凝縮された体験でもあります。香り、味わい、酸味、ボディ、甘み、アフターテイスト、そして人それぞれの感じ取り方と表現の仕方。

このカッピングクラスでの体験とロースターのクラフトマンシップが、いつもの「おいしい一杯のコーヒー」をより豊かに感じるきっかけとなっていたら嬉しく思います。

 

About 「オールプレス・エスプレッソ | Allpress Espresso」

1989年にニュージーランド・オークランドで創業されたスペシャルティコーヒーロースター。日本には2014年、東京・清澄白河にロースタリー&カフェをオープンし、全国170軒のカフェやレストランに向けてスペシャルティコーヒーを焙煎しています。